交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

037 国際交渉の最前線
2014年01月31日
霜田 祥樹(自動車審査部)

 幼少の頃、父親の仕事の関係でアメリカに住むチャンスがあり、多少の英語を話せるため、国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラムの会議体の1つである「The Working Party on Passive Safety (GRSP)」に定期的に参加をさせてもらっている。


 「GRSP」とは衝突安全に関わる分科会で基準の改正・制定の際に技術的、専門的検討を行うとともに、検討を経た基準案の審議・採決を行っている会議体である。車両の審査に直接関わる基準改正・制定の審議もされているため、日本で唯一の自動車の審査機関として参加している。


 欧州各国、米、豪、アジア各国(日本、中国、韓国他)などの国の代表や、自動車産業界の代表などが参加しており、これらの代表者は長年この会議に参加している方が多い。自分と比較しても明らかに年齢も役職も上であると思われる。初めてのときは、このようなベテランの方々が集まり話す会議に自分のような若造が参加して相手にされるのか、不安を感じながらGRSPに参加をした。


 この時はある国から提案された法規の改正に対し、日本の審査機関としての意向を反映させることが1つのタスクであった。前回の会議で日本以外の参加国は基本的に改正に賛成していたため、日本が改正に待ったをかけた状態であった。このため当議題が会議で話される前に提案国と日本が協議し、改正案をまとめ上げる必要があった。方法としては会議前や休憩時間などのわずかな時間を使い、内容を調整していくといったやり方である。少し前に話題となったロビー活動に近い。


 日本との文化の違いを感じたのはこの事前調整でのことだった。先に記載した通り、各国・各団体の代表者は明らかに年齢も役職も自分より上の方々が来ており、ほとんどの方が長期にわたりGRSPに携わっていると思われる。そのような方々にしてみれば「若造が何かしにきたぞ」と思われてもおかしくないのだが、嫌な顔もせずこちらの主張を最後まで聞いてくれる。それは会議の場でも同じである。的外れな意見を述べる人がいたとしても、最後までその人の意見は聞きその上で回答をする。あまり途中で会話を遮ることはしない。話を頷きながら全部聞いてくれるので、話し終わると説得できたかと感じるが、話し終わった瞬間に「考えは理解するが提案は受け入れられない」などあっさり反対されることも多々ある。


 様々な言語や文化を持つ国の代表が単に集まり話をするといっても、そもそもお互いの意思を伝えること自体が一筋縄ではいかない。陸続きの欧州では特にそのような場面が普段から多いのだと思う。


 このような環境の中で欧州の人たちは月に何回も色々な国に行き、会議をこなしており、各国・各団体の代表と協議する場が多いため、自然と交渉術が身についていくのだろうと感じた。また実際のGRSPでの会議では欧州側はそれぞれの代表者の役割が決まっているかのようにうまくバランスがとられながら会議が進んでいるように感じた。


 日本は島国という特有な環境にあり、他国と直接接していないため、様々な言語や文化をもった人たちとうまく付き合うことが欧州の人たちよりも不得意なのではないか。


 GRSPに参加している各国の代表者誰もが、基準改正により安全性の向上を目指しているが、最終的には自国の自動車産業が不利になるような方向へ基準改正を持って行きたくないと考えているはずである。そのために他国は民と官も連携をとった上で会議に参加していると思われる。我が国には上記に述べたような不利な条件があるが、日本の優れた技術を国際基準に反映させて、安全に貢献していくとともに、日本の重要な産業である自動車産業の発展のために、今後さらなる連携をとりながら、参加をしていきたいと思う。


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