交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

036 未来の自動車のために必要な約束
2013年08月14日
関根 道昭(自動車安全研究領域 主席研究員)

 最近、前の車や障害物にぶつかりそうになると自動的にブレーキがかかる自動車が話題になっています。この車に乗れば交通事故とは無縁のカーライフが送れると期待する方もいらっしゃるでしょう。20年ほど前から、自動車とコンピュータの技術を連携させてブレーキやハンドルの性能を向上させる技術が開発されてきました。最近では、自動ブレーキ以外にも、前走車との車間を一定に保てるように自動的にスピードを調整する技術や、車線をはみ出さないようにハンドル操作を補助する技術などが登場しています。これらを組み合わせると、ドライバの負担は格段に軽減されます。将来、ドライバの主な仕事は目的地を入力して、車の走行状態を監視することになるかもしれません。


 このような技術は世界中で開発されているため競争が激しくなっています。夢のような自動車がすぐにでも登場しそうな勢いですが、いくつか心配なことがあります。たとえば、コンピュータは万能ではないため、雨の日や夜間など視界が悪いときに誤った判断をするかも知れません。また、装置が故障した場合は、すぐにドライバの手動操作に切り替える必要があります。


 先進技術を搭載した自動車が本格的に普及する前に、電子制御の原則を国際的に決めておく必要があります。その一つとして2013年6月に国際連合の欧州本部で制御プリンシプル(Design Principles for Control Systems of Advanced Driver Assistance Systems)という文書が採択されました。国際連合はWP29(自動車基準調和世界フォーラム)という会議において、自動車の安全性能や環境性能などの国際基準を定めています。


 制御プリンシプルは、先進技術を搭載した自動車の設計に対する基本的、国際的な配慮事項を記したものです。たとえば、ドライバの操作は電子制御よりも常に優先されること、電子制御が正常に動かないとき、または故障したときにはドライバにその状態をすぐに知らせること、といった内容が含まれています。つまり、高度な技術を搭載した自動車であっても、最終的にはそれを運転する人間の判断を優先し、かつ誤った使い方をさせないような工夫が必要だと提言しています。



国際連合欧州本部
国際連合欧州本部(スイス、ジュネーブ)


 ちなみに、WP29が通常扱う自動車の国際基準は、個々の部品や装置の設計条件と試験方法が記載されています。つまり、すでに普及している技術に対する取り決めであることがほとんどです。制御プリンシプルのようにまだ成熟していない技術に対して将来の規範となるべき文書が採択されるのは珍しいことです。それでもなお、本文書が採択された大きな理由は、電子制御を中心とした先進技術の重要性が国際的に認識されていると同時に、その適正な発展が期待されている証拠だと思います。このプリンシプルに基づいてシステムが設計されることにより、いまよりもずっと安全で快適な自動車が登場することに期待しています。


 なお、私は当研究所の平松金雄客員研究員とともに、WP29の事務局メンバーとして制御プリンシプルの文案作成に携わりました。文案を充実させるために、平松氏の人脈を積極的に活用して、ドイツ、イギリス、フランスなどの研究機関を訪問し、開発担当者の意見も反映させるよう努力しました。時にはこのような文書が足かせとなることを懸念する利害関係者とも調整を行いました。今回の採択に当たり、平松氏の長年の経験と卓越した語学力、調整力は不可欠でした。この場をお借りして謝意を表させていただきます。



本文書は2014年1月にConsolidated Resolution on the Construction of Vehicles (R.E.3)のAnnex 5として公表されました。

国連文書番号ECE/TRANS/WP.29/78/Rev.3
http://www.unece.org/fileadmin/DAM/trans/main/wp29/wp29resolutions/ECE-TRANS-WP29-78-r3e.pdf
90ページから102ページ(英語)


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