交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

034 代燃車をご存じですか?
2012年09月14日
山口 恭平(環境研究領域 研究員)

1.はじめに
 本年1月1日付で交通安全環境研究所(以下、交通研)に入所した“新入り”が今回のコラムを執筆することになりました。そこで、今回のコラムでは自動車好きの私が入所後、最初に試験した車両について紹介したいと思います。
 本題に入る前に、私の自己紹介から。幼少の頃から自動車が好きであったこともあり、大学では機械工学を専攻し、エンジンに関する研究を行っている研究室にて学びました。その後、自動車メーカーに就職し、エンジンに関する研究業務に取り組んでいましたが、色々思うところがあり、交通研に入所しました。学生時代から主にエンジンの研究に取り組んできたため、試験などを通じて様々なエンジンを見たり、触れたりしてきましたが、今回のコラムで紹介する車両のエンジンシステムは大変古く、現在のエンジンとは大きく異なるシステムでした。そのため、驚かされることも多く、貴重な経験をすることができましたので、紹介させて頂きます。



2.代燃車とは?
 私が最初に試験した車両は、大変古くレトロな“代燃車”のバスでした(図1)。



図1 試験車両の代燃車バス

 代燃車って何だろう?と思われる方が多数かと思います。代燃車とは「石油代用燃料使用装置設置自動車」の略称で、ガソリンエンジンを搭載した車両をベースにガス発生装置を追加で設置し、石油に代わって木炭や薪、石炭などを加熱して発生したガスを燃料とする車両です。見慣れない大きな装置がバスの後部に装着されていますが、それがガス発生装置です(図2)。



図2 ガス発生装置

 燃料である石油の入手が困難であった戦時中や戦後間もない頃に考案された車両であり、ベース車両に比べ動力性能が劣るなど不便な点も多く、戦後、石油事情が好転すると徐々に淘汰され、現在においては動態保存されている車両は数少なくなっています。



3.世界初?!代燃車の試験
 代燃車は石油の入手が困難であった時代に利用されていましたが、近年においても石油などのエネルギーが入手困難になる可能性はあります。その一例として震災などの緊急時が挙げられます。石油や電気といった遠方から運ばれるエネルギーはそのような場合に途絶えるリスクを伴うため、緊急時の交通手段として、身近にある「木」を燃料とする代燃車に着目しました。代燃車の性能は今まで定量的に評価される機会がなかったため、今回、その性能調査を実施しました。
 今回の試験は公道走行ではなく、シャシダイナモ上にて行いました(図3)。おそらく、代燃車をシャシダイナモ上にて試験したのは世界初だと思います(今後もないかと...)。



図3 シャシダイナモにおける試験風景

 代燃車はエンジンを一発で始動させることが難しく、燃料となるガスをあらかじめ発生させておく必要もあるため、エンジンが始動するまでに数時間を要することもあります。また、ガスを発生させるために使用する木材の種類によって、エンジン始動までの時間が変化することもあり、何も考えずにキーを回せばエンジンが始動する現在の自動車の便利さを改めて実感しました。



図4 ガスを発生させる作業風景

 そのような代燃車を運転するには、現在の自動車に比べ、多くの操作が必要となります。その一つに空気と燃料の混合割合(空燃比)の調整が挙げられます。現在のガソリンエンジンでは排出ガスや燃費性能の面から空燃比が適切な値になるよう電子制御されていますが、代燃車には当然そのような制御装置はついておりません。代燃車ではドライバーがアクセルで燃焼ガス量を制御しつつ、同時にチョーク弁を操作し空気量を制御することで空燃比を調整します。そのため、適切な空燃比から大きくかけ離れていると予想していましたが、実際のところ大きくかけ離れることなく制御されており、人の“勘と経験”を侮ってはならないと感じました。



図5 エンジン

 ここで、代燃車の動力性能に着目すると、今回の試験で得られた最高到達出力は約18kW(約23馬力)でした。ちなみに、現在の中型バスにおける最高出力は150kw以上です。代燃車のベースとなったガソリンエンジンの最高出力が約91kWであり、測定方法の違いを考慮しても、出力が大きく低下していることが分かります。代燃車のバスでは上り坂に差し掛かると乗客が降りてバスを押していたと言われていますが、それも納得できる出力です。
 次に、その燃費性能について、石油を燃料としない代燃車では“燃費”という表現は正確ではありません。そこで、一般的なエンジン車の燃費に相当する“薪消費率”を計算すると、薪1kgで1km前後走行可能なレベルでした。薪を入れるガス発生炉(釜)の容量から言えば、“満タン”状態から50km程度は走行可能ですが、“空”になるまで継続して走行出来るわけではなく、実質的にはその半分程度の航続距離でした。このように出力が低い上に航続距離が短いことも、代燃車が淘汰された理由と言えます。



4.おわりに
 “代燃車”という大変古く、貴重な車両を試験する機会がありましたので、今回のコラムにて紹介させて頂きました。試験終了後、交通研の構内にて試乗しましたが、今のバスでは決して味わえない、薪を燃やしたにおいやエンジンの音、振動は心を和ませてくれるものでした。代燃車は50年以上前に考案されたシステムではありますが、細部にわたりよく考えて作られており、当時の高い技術力や石油が入手出来ないという追い込まれた状況下で発揮された底力を感じさせられました。これから50年後、未来の人が現在の車両に触れる機会があれば、彼らはどのように感じるのでしょうか。
 今後も、試験などを通じて珍しい車両やエンジンに触れる機会があれば、このコラムにて紹介していきたいと思います。
 最後に、本試験の実施にあたり、神奈川中央交通株式会社殿より多大なご協力を頂きました。心より感謝申し上げます。


※シャシダイナモ:自動車で道路を走行する状態を実験室内で再現し、走行する試験装置


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