交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

032 グリーン・サスティナブル オートモーティブ テクノロジー(Green & Sustainable Automotive Technology)
2012年03月26日
新国 哲也(環境研究領域)

 最近、地球温暖化の問題がマスコミなどにより取り上げられる機会が減ったように感じられます。昨年日本は非常に大きな震災により甚大な災害を被り、また世界的に経済が不安定であることなど、地球温暖化以外の関心事に注目が集まっていることが原因と思われます。しかし人々の関心の度合いが低くなったとしても、地球温暖化は継続的に対処すべき問題として変わらず存在し続けています。
 電気自動車は光化学スモッグなどの原因物質であるNOxなどを含む排出ガスを放出することが無いため、環境に優しい自動車として注目されてきました。電気自動車も電気を使用するために発電における排出ガス発生には間接的に寄与しているとも言えますが、内燃機関を用いた自動車が様々な場所で排出するガスを回収することは困難であることなどを踏まえると、排出ガスが存在しないということは電気自動車のすぐれた特徴であると思います。
 一方電気自動車に使われている新しい技術、例えば小型で大量の電気エネルギーを貯蔵することができるバッテリが非常に注目されていますが、バッテリを製造する段階においては大量のエネルギーを使用することも知られています。大量のエネルギーの使用は、地球温暖化ガスの大量放出にもつながります。高エネルギー密度のバッテリといった新技術の導入によって排出ガスや地球温暖化ガスの量を自動車の使用(走行)段階から発電段階と製造段階に付け替えられてしまっては、元も子もないと思います。
 自動車の製造段階での環境負荷を把握するための1つの物差しとしてCO2排出量があります。一部の自動車メーカでは、製造段階でのCO2の排出量を自主的に算出しホームページ等で公表しています。また、かつては自動車メーカ全体の取組みとして、自動車の製造・廃棄段階の環境負荷を見積もるという試みも行われました。しかし、残念ながら全体的・継続的な取り組みとはなっていないようです。
 自動車産業は非常にすそ野が広く、数多くの部品メーカや材料メーカが生産に携わっています。自動車メーカからは、実情として数多くのサプライヤーから部品の供給を受けていて、最終製品を生産しているのが自動車メーカであって、生産のすべての工程でのCO2排出の責任を、最終製品を生産している自動車メーカのみが背負うのは不公平であるという声も聞かれます。
 しかし、製造過程でどのように工夫すれば環境負荷が減らせるかを知っている、またその具体的な方法を考案できるのは、まさに自動車生産を行っている自動車メーカだけです。

 かつての環境問題といえば、水俣病など工場からの有害物質の流出など、直接的に人間の健康を害する例がありました。現在はそのようなことはだいぶ少なくなってきています。これは、時間がかかったかもしれませんが化学産業における改善の努力の結果であると思います。こうした過去の経験を踏まえた、新しいムーブメントが化学界で立ち上がっており、今後の自動車および環境を考える上で有用だと思いますので、ここで紹介したいと思います。

  グリーン・サスティナブルケミストリー: 経済産業省の資料を引用すると『グリーンケミストリーは、化学物質の開発と製造をその原料の選択から最終製品までのあらゆる過程で、化学物質の毒性と安全性に関する情報を駆使して環境と人に対する影響を低減するための検討と選択を実践することである。』ということです。

  グリーンケミストリー(Green Chemistry)では、グリーンケミストリー12原則(グリーンケミストリー12箇条などとも言われます)を掲げ、過去の化学合成法の評価、改善やこれからの化学合成の環境負荷低減などをこの12原則を通して議論しています。グリーンケミストリー12原則は米国のPaul T. Anastas, Ph.D(米国大統領 科学技術政策担当者)らによって考案されたもので、以下のような内容です。

1.廃棄物は「出してから処理ではなく」、出さない
2.原料をなるべく無駄にしない形の合成をする
3.人体と環境に害の少ない反応物、生成物にする
4.機能が同じなら、毒性のなるべく小さい物質をつくる
5.補助物質はなるべく減らし、使うにしても無害なものを
6.環境と経費への負担を考え、省エネを心がける
7.原料は枯渇性資源ではなく再生可能な資源から得る
8.途中の修飾反応はできるだけ避ける
9.できるかぎり触媒反応を目指す
10.使用後に環境中で分解するような製品を目指す
11.プロセス計測を導入する
12.化学事故につながりにくい物質を使う

  化学合成分野に人々による提唱であるために、専門的な条項が具体的に示されていますが、例えば、『廃棄物は「出してから処理ではなく」、出さない』とか『環境と経費への負担を考え、省エネを心がける』などは、どのような産業(もちろん自動車産業も含みますが)でも当てはまる、普遍的なテーマであると言えると思います。

 グリーンケミストリーのもう一つの特徴は、その実践にあります。日・米・欧を拠点として、国際的な会議は毎年開催されており、その中では例えばヒ素の除去プロセスの研究の取組みや、バイオ燃料合成段階での省エネルギー化の取組みなどが議論されています。かつては先に述べたような有害物質に関するテーマが中心的でしたが、近年では資源保全やエネルギー保全など、サスティナブルケミストリー(Sustainable Chemistry)を目指すテーマも多数を占めるようになってきています。
 このような取り組みは米国のSAE:Society of Automotive Engineersにおいても注目されており、自動車エンジニアにも注目する動きが出はじめています。さらに研究活動にとどまらず、米国ではCalifornia Green Chemistry Initiative(カリフォルニア グリーンケミストリー法)や欧州のREACH法など行政にも強く影響を与えています。
http://j-net21.smrj.go.jp/well/reach/column/110121.html

Paul T. Anastas氏、John C. Warner氏の著書(Green Chemistry: Theory and Practice)の中の言葉を引用すると 「化学者の仕事も、いじる(取り扱う化学)物質も、なぜ環境にやさしくしなければならないのか。単純明快な答えが一つある。とにかく化学者はそれができるからだ。」 これは、自動車についても同じだと思います。

 先にも述べましたが、電気自動車は環境適合性の高い自動車として非常に期待されて登場しました。電気自動車を製造から廃棄までを展望して本当に適合性が高いのかという観点で見つめ直すことこそ、自動車産業におけるグリーン・サスティナブルオートモーティブテクノロジーのスタートとなると考えます。


当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、交通安全環境研究所としての見解を示すものではありません。なお、記載の肩書は掲載当時のものです。また、当サイトのコンテンツを転載される場合は、事前にご連絡をお願い致します。

企画室(kikaku@ntsel.go.jp