交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

019 安全運転を支援する技術革新進む
2010年11月08日
安藤 憲一(自動車安全研究領域 領域長)

 今回のコラムでは、私の研究業務の中でもとくに皆様の関心が高いと思われる、予防安全技術の推移をテーマにし、今後の展望までを述べてみたい。

 自動車の安全技術は衝突安全から予防安全に重点が移りつつある。センサやコンピュータを利用してドライバーの認知、判断、操作を支援する予防安全技術が実用化されつつある。通信技術を活用した安全運転支援システムも実証段階にある。ただし、運転の主体はあくまでドライバーであり、システムへの過度の依存を防ぐ対策が重要となる。メーカーによってばらばらの性能基準を標準化すること、保険の優遇などインセンティヴが普及の鍵を握る。

【現状】
 昨年の交通事故の死者数は4914人と57年ぶりの低い水準だったものの、いまだに5000近い人が犠牲になっている。形態別に見ると、歩行者と乗員がそれぞれ1/3を占め、歩行者の割合が増える傾向にある。また、事故件数や負傷者数は死者数に比べると減少傾向が弱い。

 自動車の安全性は大きく分けて、事故の際に車内の乗員の被害を軽減する衝突安全と、事故そのものの発生を防止する予防安全がある。衝突安全についてはエアバックや衝撃吸収車体などが90年代以降、急速に普及して効果をあげており、今世紀に入ってからは予防安全に対策の重点が移ってきている。

 先進安全自動車(ASV)とは先進技術を利用してドライバーの安全運転を支援するシステムを搭載した自動車であり、国土交通省を中心として産官学共同でプロジェクトが進められている。センサやコンピュータを活用してブレーキや灯火器などの装置を高度に制御することで、さまざまな運転状態において安全運転を支援する予防安全技術が多数開発されている。

 例えば、衝突被害軽減ブレーキは、常に前方の障害物をセンサで見張って、ドライバーが居眠りなどでブレーキ操作を怠っている場合、警報を発して危険を知らせ、それでも気付かない場合は自動的にブレーキをかけて速度を下げ、衝突の被害を軽減するインテリジェントブレーキである。他にもACC(車間距離維持機能付のクルーズコントロール)、レーンキープアシスト、ふらつき警報、横滑り防止機能などが実用化されている。

【課題】
 他方でさまざまな予防安全システムで安全運転が楽になった場合、ドライバーがシステムに依存しすぎて注意力が低下する結果、漫然運転につながるおそれがある。システムを過信する結果、警報がないから安全だと判断したり、ブレーキ操作を自動システムに任せてしまうことである。運転の主体はあくまでドライバーであり、システムは危険を回避するための支援に徹するため、支援の方法や水準を慎重に設定することが重要である。

 また、自動車の安全装置は性能の基準が法令で決められているが、ASVで使われる最新技術については、まだ評価法ができていないものが多く、現状ではメーカーの判断に委ねられている。技術の開発を促し普及を促進する観点からはそれぞれの予防安全技術の標準的な性能試験法を作ることが重要であり、交通安全環境研究所では試験法の開発に取り組んでいる。

 交通事故そのものを減らすためには、予防安全技術を装備した車が普及することが重要だが、近年、自動車の使用期間が長期化しているため、普及が進んでいない。更にこれらの予防安全技術は多くの先進技術が使われているため高価となる傾向がある。普及のためにはユーザーへの適切な情報の提供や保険の優遇などのインセンティブも鍵となる。

【展望】
 今後は通信技術を活用した安全運転支援システムの実用化と普及が期待される。道路側のセンサと車の間、あるいは車同士が情報をやりとりすることで、ドライバーの認知しにくいところにいる車両や歩行者などの情報も得ることができる。音声や画像で注意を喚起することによって、出会い頭での衝突事故や交差点で右折の際に対向車の後ろから急に現れる車両との事故等の防止に効果が期待される。

 将来は、認知・判断・操作において更に高度な支援ができそうだ。ドライバーの運転能力だけでなく心理的な面や健康状態までとらえた支援が実現でき、リスクの低減が図れるだろう。

※日本経済新聞(2010年8月10日付)より一部加筆修正の上,転載。


当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、交通安全環境研究所としての見解を示すものではありません。なお、記載の肩書は掲載当時のものです。また、当サイトのコンテンツを転載される場合は、事前にご連絡をお願い致します。

企画室(kikaku@ntsel.go.jp