交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

014 誇りうる日本に向けて
2010年01月18日
大橋 徹郎(理事長)

 21世紀は過去の延長線上の思考では対処不可能な激変の時代になることを予感させます。個人や家庭はもとより、自治体や企業、国家などが世界規模で叡智を結集し、新たな規範や方法論を考えなければ、起こりうる困難や破綻を解決できない感じがしてなりません。
 ちなみに、今我々を取り巻く困難な課題を例示しますと、国内では「800兆円もの膨大な財政赤字」、「生存基本要件のエネルギー、食料に脆弱な構造」、さらに「少子高齢化」などが挙げられます。他方、国際的には終わりの見えない「テロとの戦い」の中、中長期的には「地球温暖化防止」への公平で公正な方法論の合意が迫られていますし、短期的には「資本主義を支えてきた近代金融システムの破綻」が引き起こした世界的経済危機に直面しています。これらの課題の解決は至難で、高度な叡智が必要ではありますが、意外と日本の誇るべき「長所」にその解決の一助があるのではないかと思われます。
 「高度な技術力」「豊穣な土地と緑と水」「安全で長寿な国」「伝統的精神文化」などがその事例です。これらの長所を世界に発信することによって、他国特に近隣アジア諸国からもより信頼されることも可能ではないでしょうか。以下2、3の事例について筆者の独断的見解を述べさせて頂きます。ただし大前提として、少子化と低成長を是認し、狭い日本の最適人口はたとえば現状の半分の6,000万人程度と割切り、一人当たりGDPが現状(国全体のGDP半減)であれば、エネルギーや食料の自給率も向上し、都市と地方の格差も縮小し、案外身の丈に合った心豊かな生活が可能との希望をつことが重要となります。
 先ず「高度な技術力」の発揮についてですが、これに関しては多少の反省が必要かも知れません。多額な資金を使う割にその恩恵の乏しい先端科学の無駄遣いや「開発のための開発」などは再考すべきではないでしょうか。たとえば「不必要に多機能な携帯電話」や「自然よりも美しいカラープリンター」が典型例だと思います。消費者が「本当に欲しい」と思う前に多種多様な商品が襲ってくるのが現状です。人々が真に必要としていることは何なのかを熟考し、それに対する「科学技術」の貢献が重要です。筆者としては日本が得意な「創・省エネルギー技術」「再生医療も含めた医学・薬学」「食料自給率向上のためのバイオサイエンス」などに従来以上に注力すべきではと考えます。
 次に「日本の豊かな水資源」について述べます。「水は石油よりも貴重になる」日が来るといわれている中、日本の年間平均降雨量は国民一人当たり消費をはるかに上回る程に豊富であると言われています。課題は降雨が時期的にも地域的にも偏在し、かつ国土の急峻さと森林の減少などで大量の雨水が逸出していることにあります。この解決の一手段として既存の「貯水ダム」や「地下貯水槽」同士をパイプラインで連結させて、貯水量の「平準化」と「増量」を図ることは如何でしょうか。ガスパイプラインが実現していることを思えば困難とは思われません。しかも、隣国の中国が近い将来「砂漠化と水飢饉」に遭遇することが予見される中、中国までの海底水パイプラインの敷設も有意義ではないでしょうか。
 最後に「日本の精神文化」の貢献について触れます。大戦後に長く続いた「冷戦」終結をもって「これで世界は平和になる」と誰もが歓喜しましたが、ご承知のとおり9.11事件以降、残念ながら世界は止むことの無いテロとの戦いに明け暮れています。原因は多様とは思いますが、その背景の一部に「西洋(キリスト)文明とイスラム文明の歴史的確執」も見て取れます。日本はこれらの紛争からは民族的・宗教的にも中立等距離で、双方融和のための仲介者となりうる最適国の一つではないでしょうか。特に「禅、能楽、茶の湯、生け花などを育んできた中世以来の質素、謙虚、風雅を土壌とする精神文化」を広める努力をもっとすべきではないでしょうか。
 「ワーキングプアー」や「偽装や隠蔽等のモラルハザード」など、日本にも困難な事象も起きてはいますが、伝統の「高度な教育力」や「忍耐と勤勉」などまでもが失われたとは思われません。「高度成長期」を経て「利益至上主義」と「物質的豊かさ」のみを良しとしてきた風潮を反省し、「日本の技術と自然と心」を再認識し、それらを活用してゆくことが、我々と世界の人々にとって有意義ではないでしょうか。

以上 ※京三サーキュラーvol.60No.1
(2009.1.1発行)より転載
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