交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

013 雑感:研究所フォーラムに向けて ~入場無料・ギャラ給料~
2009年10月05日
鈴木 眞弓(企画室)

来月に研究所フォーラムを控え、研究員の皆さんたちが、原稿作りや資料作りに奔走し始めた今日この頃、フォーラム開催をサポートする立場から、「人前で話を伝える」ということのポイントを書いてみようと思う。
こういう文章はその道のプロが書くから説得力があるのだが(美しい人が書いた美容エッセイや、美味しい料理を作れることで定評のある人の料理コラムなど)、残念ながら私に人前で話してうまいという実績は皆無。今回のこのコラムは、聴衆代表の一意見として受け取ってもらえるとありがたい。

しゃべりのプロとそうでない人の境界線はどこにあるだろうか?
私は、そこにお金というものが発生した時だと思う。
お金を頂いて人前でしゃべる。
それにはプロとしての自覚をもって臨まなくてはならない。

まず、プロとしての自覚。
私は数年前に、某アナウンサーのマネージャーを務めていた事がある。
名前を言えばたいていの人が顔と名前が一致する有名な方にご縁があってお側にいさせて頂いたことがあるが、1本数百万円という彼の講演会の開始前はなかなか興味深いものがあった。
会場に着くなり、彼は私にこう聞くのだ。
『今日の客層と、一番目立つ人の特徴を教えてくれる?』
話す内容はクライアントとの打合せ等で大体の骨組みは決まるのだが、彼はその客層に合わせて話し方を微妙に変えていたように思う。
その上、会場内の湿度のチェック、3種類のうがい薬等、自分の声がいかにその会場で美しく通るかを計算していたのである。


そしてまず、講演の冒頭で聞き手をひきつける。
ひきつけるのに一番手っ取り早い方法が『観客に向って質問をする』だ。
誰かを指名して応えさせる。
観客の心理として、次はいつ自分が指されるかわからないから話を真剣に聞く。
だから、会場で一番目立つ人を彼は講演会の冒頭の部分で必ず俎に乗せる。
目立つ格好をしてくる人は注目を集めたい人であったり、その会で中心的存在である事が多いらしい。
一番目立つ人をおさえるとその講演会は一致団結したかのような一体感が生まれる。
一体感のあとに、話す内容への共感を持たせるということも大事だ。

よく自分の失敗談を取り入れると共感が持てるというが、偉い人の話で失敗談が出るとさらに共感度は増すらしいですぞ?
『こんなすごい人でも、こんな当たり前の失敗をする』的な安心感は、自分に近い存在なのだと錯覚し、共感を生むのだ。


また、観客の1人1人の目を合わせるように話すのもテクニックだ。
よくアイドルのコンサートで『○○と目が合った!絶対私に笑いかけた!○○は私ばかり見てた!』的な「勘違いさん」がいる。
が、これは実際照明の当たるステージ等に立った事がある人ならわかると思うが、観客の顔などほとんど見えない。
アイドルさんたちもその辺は心得たもので、わざと視線を観客に向けて歌い、話す。


講演会等も遠い話ではない。
下を向いて原稿をただ棒読みする人より、訴えかけるような演説の方が心を掴む。
いい見本がTVで毎日のように出ているではないか?
オバマ大統領だ!
歴代の首相でも原稿に目をくれず、自分の言葉で話すように訴えかける人は支持率が良かったような気がしないだろうか?
ちなみにアイススケートの荒川静香さんもプロになってから演技を大きく変えた点は視線を上げ、観客1人1人と目を合わせるように演技をすることだったそうだ。
「選手」と「プロ」の差は視線らしい。

ところで、最近、『サシスセソ』の発音がきちんとできない若者が多くなってきた。噛み合せの問題で、息漏れの音が大きいのである。
若くはないが、その代表が私だ。
知り合いの歯科医によればあごの形の悪い現代人の特徴だという。
たしかにあごの形をみればだいたいその人がどんな声をだすのか解る。
鼻の形を見れば(整形でもない限り)声の高さもなんとなくわかる。
食生活が柔らかい食べ物が中心となったせいで、顔の輪郭まで変わってきたのであれば、数年後、発する声も画一化してきそうな気がするのは私だけだろうか?
とはいえ、私の友人は美人なのに声がやたらガラッパチな子が多いのはなぜだろう?

ただ、声は生まれ持った高音・低音の他に、意識でいくらでも変えられる。
高音は興味をひかせるとき、低音は説得をするときに適している。
声優さんが、萌えキャラ(注1)を演じた後に、ドキュメンタリーのナレーションを読んでみたり、使い分けをしながら表現の幅を拡げている。
音楽も高音があって、低音があって旋律が完成する。
同じ音階では音楽になりえない、Aメロ(注2)や、サビがあって、音楽になる。
サビだけだと疲れてしまうし、盛り上がるところのない曲はぱっとしないのと同じである。

お金をもらって人前で話す以上、伝えのプロとして『プロの意識』でステージに立たねばならない。
2006年に日本ハムファイターズを優勝に導いたといっても過言ではない新庄剛志選手は、同球団選手たちにヒーローインタビューの受け答えの方法をレクチャーしたという。
有名な事柄のひとつとして、ヒーローインタビューでよくあるやりとり、インタビュアーから話を振られた際の『そうですねー』という相槌の廃止を徹底したのだ。
『そうですねー』から始まる、ほぼ定型化されたインタビューでは、観客の心に残らない。観客の心を掴むためには、拙くても良いから自分の言葉で話かけるということだ。
人前で自分の言葉で話をするという意識を強く持たせたことにより、選手は私生活からプロ意識を強く持ち、立ち居振る舞いから気にするようになり、いい連鎖は試合の結果にも結びつき・・・
ま、最後は優勝まで導いちゃった訳だ。

「人前で話しを伝える術」とは先天的な才能だけではない。
意識でいくらでも向上する。
講演内容に点数をつけられる立場ではないが、聞き手側に限りなく近いスタッフから一言言わせて頂けるのであれば、研究内容が100点であっても、ちょっとした話し方の意識でその講演が120点になることもある。
せっかく良い研究なのに、話し方1つで全く反対の評価になってしまうこともあり得るのだ。
全く同じ内容の講演をした二人がいたとしたら、最後に評価を上げるのは話のうまい方だ。
観客の状況に目を配り、話にアクセントをつけながら、自分の言葉で話す。
全てを一度に実践するのは難しいが、まずは出来る事からひとつひとつチャレンジしてみれば、さらに聴衆の共感を引き出せるのではないだろうか。

以上

注1(萌えキャラ):アニメオタクが疑似恋愛感情や保護欲求を抱くような二次元キャラクター。通常はかわいらしい女の子であるが、擬人化された動物や、妖精等の人間以外のキャラクターもある。
注2(Aメロ):歌の「サビ」のところに向かうまでの、歌い始め部にある感情を抑え気味のメロディ。


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