交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

012 部分は全体を理解できるか?
2009年08月07日
後藤 雄一(環境研究領域長)

 表題は、一般的な表現にしているが、昔から私が気にしているテーマである。最近の環境問題について、考えていることの一端を紹介した。あくまでも一つの見方として考えて頂ければ幸いである。

 部分は全体の一部であることから、部分のすべての内容は全体に含まれる。他方、部分には全体すべての内容は含まれていない。そのため部分の内容でもって全体を推し量ることはできるかもしれないが、全体すべてを理解することはできない。この考えは最もらしいと思っているが、環境問題について考えるとどうなるだろう。

 物理の世界は、自然を階層的に説明している。人間の大きさを示す代表的長さm(メートル)を基準とすると、小さい方では細胞、分子、原子、原子核、陽子や中性子、クォークまである。反対に大きい方では、地球(惑星)、太陽系(恒星)、星団、銀河、銀河団、宇宙まである。このような階層的構造をしめす物理的世界の中で、人間は、宇宙を全体とする部分であり、細胞を部分とする全体でもあるという包含関係の中にある。

 観測者としての人間(部分)から世界(全体)をみるとして、単数(個)、複数(集団)の区別、内面(精神)、外面(物質)の区別を考えるとしよう。単数と複数の区別は簡単と思えるが、内面と外面の区別は難しい。内面と外面の境界面をどのように考えるかは、多くの考え方がある一方で境界面すらないという考えもある。しかしながら、世の中には内面と外面を区別する考え方が、昔から普遍的に存在することを考えればこの考え方はそれほど無理がある考えとは言えない。これら区別の組み合わせは単数-内面、単数-外面、複数-内面、複数-外面の4つに分かれる1)。4つの象限の中で、物理的世界では、単数-外面、複数-外面という外面の象限を扱う。精神的世界では単数-内面、複数(例えば、社会)-内面という内面の象限を扱う。このような観点でみると、今まで多くの考え方はこの4つの象限の中のどこかを扱っているものが多く、4象限すべてをまとめてみているものは少ない。

 4つの象限のうちで複数の象限では、複数の対象の間に働く相互作用が弱いときには簡単化の近似が出来るが、相互作用が強い場合は現象の近似化は簡単ではない。また、4つの象限のうちで内面の象限では、多くの事柄は言葉を用いて考えたり理解したりするが、世界には言葉で示せないものや理解できないものがあると思える。その意味ではこの文章自体も不正確で不十分なものである。

 以上のようなことから最初に述べた疑問が出てくる。すなわち、部分である人間が全体である世界を本当に理解できるのかという疑問である。年齢を重ねたためか、色々な考えに接してきて、世界を把握することは、自分とそれ以外と区別する形ではなく世界と一体化するような形となるような、理解という言葉を超えたところにあるように思える。少なくとも4つの象限を総合的にとらえる必要があるのではないか。

 翻って、このところの環境問題である。この「環境問題」との表現には、人間とそれを取り巻く環境を分けた考え方が根底にある気がする。ところが実際には、人間自体も世界の一部であり、環境でもある。現在、議論されている多くの環境問題は、4つの象限のうち特に人間を別扱いとした外面の象限についての話が多いように思われて仕方がない。今までの多くの考えが、上述の4つの象限の一部を対象としており、全部をまとめてみているものが少ないように見える。

 金魚鉢の中の金魚が、水が汚れる(環境問題)ことを問題にして、誰が水をきれいにするのかを議論しているような気がする。想像であるが、全体(宇宙)からみれば、今の環境問題は地球の中の自然の偏りを是正する動きにすぎないのかもしれない。環境問題は、人間が自然の中の一部であることを認識させる問題のように思える。

 表題に対する解答は、そう簡単には出ないかもしれないし、もともと無理なのかもしれない。そのように謙虚に考えるとき、時間はかかるだろうが、理解を進める上で原点座標を移して4つの象限に対して総合的に今の環境問題を見直す必要があるのではないか? そのとき、部分が全体を理解することは難しいとしても、少なくとも全体に対してより近い推定が出来るようになるかもしれない。

 1)ケン・ウィルバー:万物の歴史、春秋社


以上

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