交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

004 LPG自動車のおいしい話
2008年06月09日
水嶋 教文(環境研究領域 研究員)

●LPGとは?
LPGってご存知ですか?LPGは液化石油ガス(Liquefied Petroleum Gas)の略で、プロパン(C3H8)とブタン(C4H10)を主成分とする化石燃料です。数十年前は、主に石油生成過程で発生するプロパンやブタンを回収、液化して製造されていましたが、最近では大半が油田や天然ガス田からの随伴ガスを回収、液化して製造されています。今後は、天然ガスの需要拡大とともに天然ガス由来のLPGの供給量の増大が予想され、これを有効に利用することで石油の一部を代替とすることが可能であると考えられます。また、LPGの主成分であるプロパンやブタンはその分子の構造上、炭素原子の占める割合が少ないため、他の石油系燃料と比較して燃焼時に発生する二酸化炭素(CO2)が少ないというメリットがあり、石油系燃料の代替とすることでCO2削減にも有効な燃料にもなります。

●LPG自動車の普及状況
LPGの利用手段の一つとして、自動車への利用が考えられます。LPG自動車はランニングコストが安いということと(2008年5月現在、自動車用LPG価格:\93/L、レギュラーガソリン価格:\160/L)、常温常圧(20℃、1気圧)で気体ですが比較的低い圧力(2~8気圧)で容易に液化できるというメリットから、現在、国内でタクシーを中心に約30万台普及しております。30万台といっても、日本国内における自動車の総保有台数が約7700万台であるため、0.4%にしかすぎません。一方、お隣の韓国ではLPGスタンドが充実しており、自動車メーカーがRV車や乗用車用にLPG自動車を生産・販売しているため、約200万台普及しています。これは、韓国国内の自動車総保有台数約1500万台に対する割合が約13%(約8台に1台)ですので、日本国内とは比べ物にならない程の普及率です。

●LPG自動車に対する従来技術
ガソリン自動車では、燃費向上のための技術が日々進化しており、最近10年で約20%も燃費が改善されています。しかし、LPG自動車は技術開発が遅れており、日本国内で普及しているLPG自動車の燃料供給技術は普及当初(1960年代)からずっとガスミキサー方式(図1)を採用しております。ガスミキサー方式というのは、吸気管に設置したベンチュリーにより気化させたLPGを吸い込むタイプのもので、ガソリンエンジンのキャブレターに相当します。キャブレターを搭載したガソリン自動車は高精度な燃料供給制御が困難であるため、近年の排出ガス規制の強化に伴い姿を消しております。また、このシステムによるLPG自動車は出力、燃費、排出ガス性能が最新式のガソリン自動車に劣ってしまうという欠点があります。一方、お隣の韓国で普及しているLPG自動車には、液体噴射システム(図2)が採用されています。これは、ガソリン自動車のマルチポイントインジェクション(MPI)システムに相当し、LPGをエンジンの燃焼室直前の吸気ポートで、液体のまま供給するシステムです。このシステムではLPG自動車とガソリン自動車で先に述べた性能の違いはほとんどないと言われています。

●交通安全環境研究所の研究でわかった「LPG自動車のおいしい話」
交通安全環境研究所では、我が国における省エネルギー化およびCO2排出量の削減を狙いとしてLPG自動車をより多く普及させるために、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により、最新式の液体噴射システムを搭載したLPG自動車の研究を行っています。この研究により、本システムを搭載したLPG自動車は、ガソリン自動車よりも『おいしい話』がいくつもあることがわかりました。

「おいしい話 その1」
エンジンのトルク・出力をガソリンエンジンより向上させることが可能
通常、ガソリンエンジンではノッキングという異常燃焼の発生により点火タイミングが制約され、特にエンジンの回転数が低いときにトルクを十分に出すことができません。しかし、LPGはノッキングの起こり難さの指標であるオクタン価が高く、点火タイミングを最適なタイミングに近づけられる、エンジンのトルク・出力をガソリンエンジンより向上させることができます(図3)。これにより、車両の運転性を向上させることが可能になります。

「おいしい話 その2」
CO2排出量を最低でも10%削減することが可能
LPGエンジンでは、ガソリンエンジンと同じ技術を用いれば、ガソリンと同様の燃焼形態となります。LPGエンジンだからといって、エンジンの効率が悪くなるということはありません。したがって、燃料そのものが持っている特性※に従って、CO2排出量を約10%削減することが可能です。また、LPGの耐ノッキング特性を活かした更なる技術開発を行うことで、これ以上のCO2排出量の削減が見込めます。

「おいしい話 その3」
エンジンから出る有害排出ガスがガソリンエンジンより少ない
最新式の液体噴射システムを搭載したLPG自動車の場合、ガソリン自動車と比べてエンジンから排出される未燃炭化水素(HC)と窒素酸化物(NOx)を低減することができます。
HCは、インジェクタで噴射された燃料噴霧がシリンダ内に流入した際に、その一部が十分に気化せずにシリンダ壁やピストン壁付近の温度の低い部分に到達し、その後の蒸発、燃焼を妨げられて未燃ガスとして排出されるものが多く、LPGも同様なメカニズムでHCが排出されます。しかし、LPGは常温常圧(20℃、1気圧)で気体として存在するためガソリンより気化特性に優れ、インジェクタからの噴射直後に大半が気化します。このため、常温常圧で液体であるガソリンと比べて上記メカニズムによるHC排出が少なくできます。また、ガソリンエンジンではエンジンが温まる前の状態で気化特性が悪化するので、エンジンが冷えて状態程、LPGエンジンのHC低減効果がよりはっきりします(図4)。
エンジンからのNOx排出量は、エンジン内部での燃焼温度に大きく影響します。LPGエンジンの場合、その燃料の特性※上ガソリンよりも燃焼温度が下がりますので、ガソリンエンジンと比べてNOx排出量を低減する効果が得られます。

以上のように、最新式の液体噴射システムを搭載したLPG自動車の研究により、様々な『おいしい話』がわかってきました。これからも、もっと『おいしい話』が生かせるように、研究を進めていく予定です。

※ 燃料の分子中において、炭素(C)原子に対する水素(H)原子の数が多く、燃焼ガス中のCO2に対するH2O(水分)の割合が、他の石油系燃料に比べて多いという特性。

 

●おわりに
現在の日本国内における自動車用燃料は、ガソリンと軽油が主流となっています。現実的にはLPGの供給量的に困難ではありますが、仮に全てのガソリン自動車をLPG自動車に置き換えることができたとしても、2050年までにCO2排出量を50%削減するという目標に対しては微々たる効果しかありません。しかし、これからはCO2排出量の削減のため、車両単体の燃費向上技術と合わせて、CO2排出量の少ない代替燃料自動車が求められ、運輸部門における燃料は多様化の方向に向かっていくと思われます。これら多様な代替燃料は、用途や地域に合わせて適材適所で利用することが不可欠です。交通安全環境研究所では、LPG以外の代替燃料に関しても適材適所での利用に向けて日々研究に取り組んでおり、これからも更なる研究を重ねていく予定です。また、これらの研究開発と併せて、ドライバー一人一人のエコドライブもCO2排出量の削減に大きく寄与できます。筆者の経験上、急加速、急発進をしない、クルージング時はできるだけアクセルを一定に保つ、という心がけだけでも車の燃費が10%程改善され、LPGによるCO2排出量削減効果10%と同じくらいの効果があります。是非、実践してみてはいかがでしょうか?







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