交通安全環境研究所 National Traffic Safety and Environment Laboratory

002 バイオ燃料はカーボンニュートラルか?
2007年12月04日
川野 大輔(環境研究領域 研究員)

●今,地球が危ない

産業革命前では、二酸化炭素(CO2 )の排出と吸収のバランスが取られていたため、大気中のCO2濃度は一定していましたが、産業革命以後のエネルギー需要に伴う化石燃料の大量消費により、CO2排出量は急激に増加しました(図1)。これが近年の地球温暖化の元凶と言われており、すでに世界中でこの地球温暖化によるものと思われる気候変動が生じています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によりますと、このままのペースでCO2が排出されると2100年までに地球の平均気温は4℃程度上昇し、地球上の多くの生態系が死滅するとまで言われています。したがって、私たちは今すぐ行動に移らなければ、映画で見たような地球滅亡の惨状が将来本当に起こり得るところまで来ているのではないでしょうか。そこで以下では、地球温暖化対策として注目されているバイオ燃料を中心に、CO2削減対策について述べたいと思います。

図1 大気中の二酸化炭素濃度の変化(IPCC第4次評価報告書より)

●バイオ燃料の作り方と使い方

どんな種類の燃料であっても、自動車に給油してそれを燃やすと、必ずCO2が排出されます。化石燃料を使用する場合は地下から燃料をくみ上げるため、植物を植え続けてCO2を吸収させるか、地下に貯蔵しない限り、必ず大気中のCO2は増えてしまいます(図2)。それが、上で述べたCO2濃度の増加に繋がっている訳です。一方、バイオ燃料は「カーボンニュートラル」、すなわちどれだけ燃やしても大気中のCO2が増加しない、と一般には定義されています。これだけでは、「バイオ燃料は地球環境にいいんだ!」「もっとバイオ燃料を作ろう!」ってことに。結局、既存の森林を伐採してまでバイオ燃料用の畑にしたり、食物をもバイオ燃料の製造に回して、いわゆる「第一世代のバイオ燃料」をどんどん作っています。しかし、バイオ燃料をどんどん使うだけでは意味がなく、これでは化石燃料とまったく同じです。あくまでも、バイオ燃料を燃やしてCO2が排出されるスピードと,それらが吸収されるスピードが同じになって、初めてカーボンニュートラルが成り立つのです(図2)。加えて、一度に大量のバイオ燃料を作らなければ、バイオ燃料製造時に排出されるCO2も増えますし、経済的にも成り立ちません。この条件をクリアするには、既存の森林を伐採せず、食用とは別にバイオ燃料専用の畑を作る。そして、収穫した分はすぐに植え直す、といった製造サイクルをきちんと作ることが必要です。現在のように食用にまで手をつけている状況では、CO2の収支を考慮することなくバイオ燃料を製造していることが多く見受けられます。今後は、上記のようなバイオ燃料専用畑の開拓や、近年までバイオ燃料への転換が難しく廃棄されていた、セルロース系バイオマスの利用など、食用バイオマスを原料としない「第二世代のバイオ燃料」に移行する必要があるようです。

ただし、広大なバイオ燃料用の畑を作れるのは、広大な面積を有する諸外国だけで、国土の狭い日本では難しいように思います。そこで日本では、それぞれの地域で一度使われた油(廃食用油)を軽油の性状に似たバイオディーゼル燃料(BDF)に変換し、これをその地域内ですべて消費する、いわゆる地産地消の形態でバイオ燃料を製造・使用する取り組みが各地方自治体等で行われています。これは、バイオ燃料のカーボンニュートラルの特性に加え、廃棄物の有効利用という付加価値があることから、非常に有効な手段と考えられます。このように、それぞれの国土・地域の特徴に合わせて、そこに最適なバイオ燃料の製造方法を見出すことも必要でしょう。

化石燃料



バイオ燃料



図2 化石燃料とバイオ燃料による炭素循環の違い

●将来の地球のためにしなければならないこと

初めにも述べたように、排出されたCO2が大気中に貯蔵されることによって、大気中のCO2濃度はどんどん増加しています。と、ここで、例えば世界のガソリンスタンドの燃料を全部バイオ燃料にすれば、どれくらいの効果があるのでしょうか?そこで、IPCCのデータをもとに、運輸部門で使われる化石燃料を2010年から全てバイオ燃料に代替した場合、大気と植物によるCO2貯蔵量が年々どのように変化するかを計算してみました(図3)。将来的にもエネルギー需要が増加するシナリオのデータを用いているために、大気中のCO2貯蔵量は年々増加します。その際、バイオ燃料の利用により貯蔵量の増加スピードを落とすことはできるのですが、すべてバイオ燃料に代替することを以ってしても赤斜線部程度の抑制効果しかなく、増加傾向には変わりがありません。この計算結果から、バイオ燃料の普及拡大によって、大気中のCO2濃度の増加スピードを下げることはできるのですが、CO2濃度を一定に保つためには、更に革新的なCO2削減対策が必要であることがわかります。

図3 大気と植物による二酸化炭素貯蔵量の変化

2008年7月に開催される北海道・洞爺湖サミットでは、「2050年までに世界の温室効果ガス排出量を半減させる」という目標設定が検討される予定になっています。手遅れになる前に大気中のCO2濃度を安定させるには妥当な目標設定であるとは思いますが、この目標値を達成するにも、既存技術の延長上ではもはや不可能であると考えられます。例えば、燃費の向上対策は引き続き重要ですが、従来から行われている内燃機関での対応技術だけでなく、特に日本の首都圏では平均車速15 km/hと極めて燃費の悪いノロノロ運転しかできませんので、これを解消するような交通流の整備やエコドライブの推進も必要であると思います。

上記では、主に運輸部門におけるCO2削減対策を述べましたが、環境省の推計によりますと、日本のCO2排出量全体の約43 %が産業部門、約23 %が運輸部門から排出されているのに対し、一般家庭からの排出量も約15 %にものぼると言われています。また、2002年における産業部門のCO2排出量が1990年比で1.7 %減少した一方で、運輸部門のCO2排出量は20.4 %の増加、さらに一般家庭からの排出量はそれを上回る28.8 %も増加しました。つまり、自動車から排出されるCO2も問題ですが、私たちの生活そのものから排出されるCO2の増加もかなり深刻であるということです。チーム・マイナス6%の活動にもありますように、今後は現在の生活が不自由にならないまでも、できるだけ地球温暖化を意識した生活を心掛ける必要があるのではないでしょうか。

当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、交通安全環境研究所としての見解を示すものではありません。なお、記載の肩書は掲載当時のものです。また、当サイトのコンテンツを転載される場合は、事前にご連絡をお願い致します。

企画室(kikaku@ntsel.go.jp